こんにちは、WRCのレオです。
今回は“コーヒーの甘さ”についてお話したいと思います。
甘いコーヒーというと砂糖が入ってるのかなと思われるかもしれませんが、無糖のコーヒーでも甘さという表現をよく使います。
今回はどんなときに甘いと感じるのか、どんなタイプの甘さなのかというのをご説明していきたいと思います。
コーヒーに含まれる甘さの成分
焙煎前の生豆に含まれる甘さの成分としては主にショ糖(スクロース)と多糖類の糖質が含まれています。
ショ糖は焙煎後97〜99%分解され、多糖類は安定して40%程残るようです。
ショ糖は砂糖の主成分であり、単糖であるグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)がグリコシド結合した糖であり、二糖類に分類されます。
主に甘みを有し、約170度に加熱するとカラメル化によりカラメルと呼ばれる褐色物質に変化します。
グルコースは単糖類の一種です。光合成によって生成される糖の一種で、植物ではデンプン(炭水化物:多糖類)として貯蔵されます。
フルクトースは単糖類の一種です。フルクトースは全ての糖の中でも最も水に溶けるようです。
多糖類は炭水化物として知られています。
植物の細部壁を構築する上ではグルコースが重合したセルロースが有名ですが、セルロース以外の多糖類も細胞壁の一部を構築していますが、これらは水に溶けづらい食物繊維です。
しかしながら多糖類は加熱によって加水分解される性質上焙煎下でも多糖類が分解され、オリゴ糖(数個の単糖類が結合したもの)や二糖類、単糖類などが生成し、焙煎による甘さ成分になるのではないかと言われています。
焙煎終了温度が低い焙煎豆はこのような生豆由来のナチュラルな甘さがキャッチしやすいのはこれが原因かなと思います。
Well developで甘さの最大化を狙う手法もありますが、大事なのは低い排出温度というわけです。
とはいえ生豆に含まれる甘さ成分は焙煎によってほぼ焼失され、残った多糖類も結局は抽出されにくく甘さダイレクトというよりボディに直結する印象です。つまり焙煎豆の甘さ成分は我々の閾値には達していないということです。
しかしながら良いコーヒーは甘さを感じます。一体なぜでしょうか。
2種類の甘さ
コーヒーで感じられる甘さは大きく2種類に分類できると思います。
1つは嗅覚によって感じる甘さともう1つは味覚で感じられる甘さです。
嗅覚により感じる甘さ
これは前回記載したフレーバーにも触れますが焙煎によって生じるSugar Brwoning Aromaによって甘いと感じます。
主に焙煎中のメイラード反応の副次反応によるストレッカー分解により多くの香気成分が生成されます。その中でも糖を焦がしたような香りのグループをSugar Browningと言い、Nutty,caramlly,chocolateyに分類される香りがコーヒーから感じられます。
つまり砂糖を焦がしたような甘く香ばしい香り(フレーバー)をキャッチすることでコーヒーが甘いと感じているということです。
Sugar Browning Aromaは生豆由来のフレーバーではないことから軽視されがちですが、Enzymaticだけでは感じられない、Sugar Browningがあるからこそ感じられるフレーバーもあるため、非常に重要であると感じます。
現に抽出においてもしっかりとSugar Browningまで抽出したコーヒーとEnzymaticが有意的に感じる液体(低濃度)ではSugar Bwoningまで抽出させた方が結果、酸味もフレーバーもより複雑性が感じられたため印象は遥かに良いものでした。
甘さという観点だけで見たときは、Enzymaticを引き合いに出した宣言よりもSugar Browning(そろそろタイピングがめんどくさくなったので以下SB)で宣言した方が分かりやすいよなぁと思ったりします。
というのも果物に含まれる甘さというのは果物そのものが甘いのでなく、それに含まれたショ糖やフルクトースがそうさせているため、コーヒーにおいてはそれが変化した形が SBだからです。
味覚により感じる甘さ
コーヒーには閾値に達する甘さ成分は含まれていないと上記で記しましたがどうして味覚で甘さを感じられるのでしょうか。
これはコーヒーから甘さを抽出しているわけではなく、甘く感じさせるように調整できるといった方が正しいかと思います。そのため抽出による甘さというニュアンスでしょうか。
以下がコーヒを甘く感じさせることができる条件?です。(あくまでも主観です)
- 角の取れた丸い酸味
- 適度な量感
- 粘性のある良質な質感
これらを達成することで甘さのあるコーヒーに仕上がると考えています。
角の取れた丸い酸味
これは酸味の強度と質に影響によって甘さが有意的に感じるか、酸味が有意的かということです。
この点についてはまずは適正な収率に調整し、かつ適切な湯温調整が必要になります。
湯温はコーヒーの温度依存性の高い成分、つまり酸味や苦味などに深く影響を及ぼします。
高温になればなるほどこれら成分の割合は大きくなるため容易に閾値に達しやすいのです。その結果それら成分の強度が大きくなり、場合によってはシャープさを伴う酸味を感じてしまい、酸っぱさが目立ってしまうことが往々にしてあります。
そのため酸味と甘さのバランスを考え、どこまで酸味が有意にならずバランスが取れ、丸みのある酸味のポイントを探すことが鍵となります。
ざっくりしてますが、酢酸が支配的なコーヒーは低温(88〜90度)で、酢酸のニュアンスが丸い又は乳酸が支配的なコーヒーは90〜92度あたりがおすすめです。
適度な量感
量感とはボディとも言い換えることもできるかもしれませんが、単にボディというよりは濃度とボディと考えた方がしっくり来るような気がします。
濃度ある方がボディは感じやすいので少し紛らわしいですが、ネガティブに感じない濃度感が良いウェイトを生み、その適度な量感により甘さを感じやすくさせます。
例えば収率は揃え、低濃度帯と高濃度帯のコーヒーがあったとすると低濃度のコーヒーはEnzymaticが主体的で高濃度ではSBが強く感じられます。
これはSBが低分子であることから閾値に達するにはある程度の量感が必要だからです。逆にEnzymaticは高分子であり閾値に達するのが早いというわけですね。というこは高濃度のコーヒーは低濃度以上にEnzymaticを含んでいるということにもなります。
また、量感とは少しずれますが、ボディがあるからこそ酸味が感知しづらくなり、結果甘く感じるというのはよくあることです。
例えばウォッシュドのグアテマラのコーヒーと同じくウォッシュドのエチオピア、どちらが酸味が強いでしょうと聞くと大体がエチオピアと答えます。しかし実際はグアテマラです。
エチオピアは酸の強度が弱いですがキャラクターが明るいかつライトボディーです。グアテマラはよくよく味わってみると酸の強度は強いですがボディがそれ以上にあるため酸味がわかりづらくなっているのです。
つまりボディの強度というのは酸味をコントロールし、甘さを引き立てるには非常に重要であることがわかります。
量感に関してはボディー、そして濃度と直結しているため、主にBRでコントロールするのが一番手っ取り早いですね。濃すぎる濃度感だと酸味が潰れ暗い印象になるため、酸味とボディーのバランスをとりながら刻んでいくのがいいのかなと思います。
粘性のある良質な質感
コーヒーは水と違い、濃度があることから必ず粘性が生まれます。
砂糖だってキャンディーだってチョコレートだって甘さのあるもの大体粘性がありますよね。
コーヒーは水溶液であり、コーヒー固形分が含まれているわけなので質感が全く水っぽいということはないはずなのです。そのためにも粘性を出してあげるということは完成されたコーヒーを抽出するには粘性は非常に重要なのです。
粘性と甘さの関係について参考になる文献があります。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/32/4/32_334/_pdf
この実験結果によるとデンプン溶液の濃度(粘性)を高くしていくほど塩味、甘味等の味覚強度が低下していくと報告されています。
この実験結果をコーヒーに当てはめてみると、コーヒーには甘味の成分は含まれておらず、主に酸味や苦味で語られることが多いです。そのため粘性を向上させることによって酸味や苦味の強度を抑えることができ、結果酸味・苦味の輪郭が丸いコーヒーに仕上げることができます。
未抽出なコーヒーは往々にして粘性は感じられず、酸味が主体的なのは粘性を感じるまでの閾値に達しておらず、高分子帯だけ目立っているという状況であることがわかります。
酸味・苦味強度を抑えるためにも粘性が必要であることがこの実験結果からも理解できます。
粘性を引き出すテクニックは収率を適正に調整するという点と、特にエスプレッソであればタンピング圧力によっても大きく変化を起こすことが可能です。
これは粉の反発力を強めることで粉体感流速をゆっくりにし、お湯と触れ合う時間が長くなり、粘性を帯るという作用なのだと感じます。
まとめ
まず、コーヒーには甘みの成分はほぼ存在せず、あっても閾値に到達するには達していない。その代わりに均一性のある抽出や調整を行うことで酸味や質感などを調整し、結果甘さを感じやすくさせるもの。
そしてSBによる鼻腔で感じられる甘い香りがコーヒーを甘いと感じさせている。
以上がコーヒーを甘くさせる作用でした。
甘さとは言い換えれば抽出液のクオリティとも言い換えることができます。
そのため近年のBrewers Cupなどでも配点が大きいんですね。
ではでは